マドリからみる映画『君の膵臓をたべたい』の謎と妄想

桜良の誤解と春樹の後悔

映画「君の膵臓をたべたい」メイン画像14

(c) 2017「君の膵臓をたべたい」製作委員会 (c)住野よる/双葉社

遺書が書かれた日について

そもそも桜良はいつこの遺書を書いたのか?
それはまさしくその人生最後の日、自宅を出たあと図書館に寄って遺書を書いています。

『今図書館に寄って、入院中に借りてた本返してるから、ちょっとだけ遅れちゃうかも。(>_<)』と彼がスイーツパラダイスで受け取ったメールにありますが、まあこのときということですね。

また回想として、最後の日と同じ服に赤いバッグを持った桜良が図書館にやってきて、そして何かを書く様子が映し出されています。
ちなみにそのあと桜の見える橋のイメージカットを挟み、そのまま幻影の制服姿の桜良へと変わり、ラストショットへとつながっていくわけです。

映画「君の膵臓をたべたい」遺書を書く準備をする桜良

(c) 2017「君の膵臓をたべたい」製作委員会 (c)住野よる/双葉社

遺書の存在を知らないときは「図書館なんて寄ってるから酷い目に合うんだ。本なんか他人に返してもらえばいいのに。油断したな」などと思っていました。
しかし事実はまるで逆で、桜良は最後まで油断なんかしていないし、むしろ何があっても大丈夫なように手を打っておいたんですよね。
【仲良し】くんも遺書の存在を知って改めて桜良の覚悟の強さを思い知ったんじゃないでしょうか。

ということは、そもそも桜良は満開の桜を見に行く旅行に行けると思っていたのか?

もしかしたら全うできないかもしれないと思っていたのかもしれません。
【仲良し】くんも彼女の家で共病文庫を読んだ際にそれには疑問を持ったフシがあります。
お母さんにそれを察せられて『あの子は人生を全うした』と言われてましたが。

ただなんにせよ彼女は、彼に会えると思うだけでもあんな風に嬉しかったんでしょう。

 

春樹への遺書について

映画「君の膵臓をたべたい」春樹への遺書

(c) 2017「君の膵臓をたべたい」製作委員会 (c)住野よる/双葉社

さて【仲良し】くん、いや春樹への遺書の内容についてなんですが、実は桜良が誤解している箇所があります。

それは『いずれ失うって分かっている私を、友達や恋人、君の中の特別な誰かにしたくないんだって』というところです。

これは違います。
桜良は間違っています。

なぜなら春樹は『君の膵臓をたべたい』と桜良にメールを送っているからです。
魂を譲り受けて桜良のようになりたいと送っているんです。

ところが物語上はメールのほうが先ですが、時系列的には遺書のほうが先なんです。
当然、この遺書が書かれていたときにはまだメールは届いていない。

要するに、桜良は春樹の本当の気持ちを知らないまま遺書を書いているんです。
言葉遣いの上手いあの桜良の遺書が、最後の文章が間違った内容で書かれているんです。

あまりにも残酷なすれ違いが生じていたんです。

映画「君の膵臓をたべたい」遺書を書く桜良

(c) 2017「君の膵臓をたべたい」製作委員会 (c)住野よる/双葉社

遺書の発見に12年かかった原因もここにあります。

桜良は自分が死んでも図書の分類は続けられると思って図書カードに細工をしたんです。
図書館を放り出してしまうほど、あるいは心の図書館を閉鎖してしまうほど春樹がショックを受けるとは想像していなかったんです。
本当はもう『特別な誰か』になっていたにもかかわらずです。

映画「君の膵臓をたべたい」病室真実か挑戦

(c) 2017「君の膵臓をたべたい」製作委員会 (c)住野よる/双葉社

すれ違いの要因のひとつは病室での「真実か挑戦」にあります。
桜良はここで自分の意思や選択ではなく、「運」に頼ってしまったんです。
結果、春樹の気持ちを直接聞いたわけでもないのに、そのあとの彼の言動で勝手に察して、悪いほうへ思い込んだのです。

今度はゲームをすること自体が桜良の「真実」を暴くことになってしまったと言えるかもしれません。

あのとき、あまりにも怖くて桜良は逃げてしまったんです。
なぜ自分を名前で呼ばないのか、その真意を直接聞くのが怖かったのです。
もしも彼と共に生きられなかったらと考えると、あの桜良でも、これだけはどうしても勇気が出なかったんです。

映画「君の膵臓をたべたい」勇気の出ない桜良画像

(c) 2017「君の膵臓をたべたい」製作委員会 (c)住野よる/双葉社

もちろん直接聞いたからと言って、桜良の望むような答えが返ってきたとは限りません。
しかしそれを受けてまた春樹が変化するかもしれないし、あるいは彼から桜良のようになりたいと伝えられるのが、もっと早くなっていたかもしれないのです。

ただやはりそれは結果を知っているから言えることであって、そもそも春樹はあやふやな態度だし、しかも入院中で何も行動できない状態で、もはや取り返しのつかないわずかな時間の中で生きる女の子に、そこまで勇気を求めるのはあまりにも厳し過ぎる気がしますが。

そうして桜良は特別な誰かにはなれなかったと思いつつも、
一緒に居られると「思えるだけ」で十分幸せと思いつつも、
悲しみに巻き込んでしまうことを申し訳ないと思いつつも、
どうしても抑えきれずに、照れ隠しで最初のセリフに被せた言い回しで、しかし切実に最後の想いを伝えるのです。

君は嫌がるかもしれないけど、私はやっぱり、君の膵臓をたべたい

そしてもちろん、春樹の最大最悪の後悔もここにあります。

もはや殺人事件に巻き込まれたことなど関係がありません。
最後のメールを見たかなどと春樹が考えること自体間違っているようにも思えます。
どちらにせよなんにせよ遅すぎるのです。

なぜもっと早く桜良に気持ちを伝えられなかったのか。
なぜ一度も名前を呼んであげられなかったのか。
なぜ名前を呼び合うような関係になれなかったのか。
誰よりも大切だった人の願いを知り、そして答えてあげられなかったのはなぜか。

桜良が死んでしまうことを忘れていたんじゃないのかと思うほどです。
桜良にはまだ「共病文庫」があるけど、春樹には「後で言う」は無いんです。

あるいはなぜ「真実か挑戦」で自分に対する気持ちを素直に聞かなかったのか。
この期に及んで心の壁が壊れてもいいと覚悟を決めきれなかったのは、桜良のことはもちろん自分のことも結局まったく分かっていなかったのではないか。
生き続ける自分なんて後で何とでもなるのに、いったいそれまで何のために自分と戦ってきたのか

挙句の果てに彼は桜良と一緒にやっていた図書の分類まで放り投げてしまったのです。

映画「君の膵臓をたべたい」桜良を見ない春樹画像

(c) 2017「君の膵臓をたべたい」製作委員会 (c)住野よる/双葉社

桜良の遺書にはガンバレ春樹ガンバレと言わんばかりに彼のことを褒め称える内容が続きますが、春樹自身はまったく納得がいかなかったでしょう。

あの桜良の遺書、12年かけて見つけた宝物には彼女の本当の願いだけではなく、自分の愚かな姿も映し出されていたのです。
書庫の中にはかつて自分が隠した「真実」、臆病な自分も隠されてあったのです。

運不運もあるかもですが、しかし決定的に気持ちを伝えるのが遅くなってしまったことについて、春樹は心より深く、後悔や懺悔をしたに違いありません。
そして文字どおり心の底から、絶対に変わらなければならない、人と心を通わせなければならないと思ったでしょう。

まったく、『遅い遅い!』ですよね。

 

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