マドリからみる映画『君の膵臓をたべたい』の謎と妄想

書庫の中の王子様

映画「君の膵臓をたべたい」メイン画像13

(c) 2017「君の膵臓をたべたい」製作委員会 (c)住野よる/双葉社

遺書を別にした理由について

桜良はそもそもなんで共病文庫とは別に遺書を書いたんでしょうかね?

まず単純に共病文庫の性質を素直に考えたのかもしれません。
つまり「共病」に「遺書」を書くという発想すらなかったのかもしれません。
あるいは一瞬思っては見たもののいくつかの理由ですぐに却下したのでしょう。

ひとつにはやっぱりサプライズ目的ですよね。
共病文庫の存在を知られてしまった彼に対して、実はそれだけじゃないというサプライズ。
もちろん『桜は散ったように見せかけて』に掛けているのもあるし、『宝さがし』のようにがんばって見つけたほうが嬉しいだろうとも思っていたんでしょう。
実際、観客としては驚いたし嬉しかったですよね。
どんな状態であろうと自分らしさを忘れていなかった証拠でもあります。

ちなみに細かいことですが、図書カードを発見したのは書庫があるカウンターとは逆側、図書館出入口側のカウンター、つまり心的な意味ではふたつあるうちの桜良側のカウンターと思われる場所で発見しています。

映画「君の膵臓をたべたい」図書カード

(c) 2017「君の膵臓をたべたい」製作委員会 (c)住野よる/双葉社

また「約束」の問題もあったんじゃないかと思います。
桜良は遺書に【仲良し】くんの名前を書きたいわけですが、共病文庫には彼の名前は書かないと約束してしまっています。
そこまでしてその約束を守る必要があるのか、といわれれば多分あると思います。

ずっと約束を守り続けてきた【仲良し】くんに対しての礼儀でもあるし、さらに恭子と仲良くしてほしいというお願いも残っているため、自分のほうから約束を破るわけにはいかないと思ったんじゃないでしょうか。
実際、「退院すること」までは桜良はなんとか約束を守りました。

映画「君の膵臓をたべたい」共病文庫名前を消す画像

(c) 2017「君の膵臓をたべたい」製作委員会 (c)住野よる/双葉社

さらにどうしたら【仲良し】くんと恭子を仲良くさせることができるか、桜良なりに考えた結果かもしれません。
つまりわざと二段構えで、時間差で言葉が届くようにしたのではないでしょうか。
桜良はモノを書く人間なので、自分の文章を読んだ人がどう思うかなど、未来を予測しながら生きている人間でもあります。
なので掛かった時間は別としてこういうストーリーを想像しながら仕掛けたのかもしれません。

あとは所有の問題。
共病文庫の所有権は最高の読者でもある【仲良し】くんに渡しましたが、そうすると恭子の手元には何も残りません。
桜良はきっと、恭子にも自分の言葉を具体的に残したかったんじゃないでしょうか。
そしてもしかしたら「星の王子さま」も彼にあげたかったのかもしれません。

ちなみに桜良は当然無意識でしょうが、結果的に共病文庫に最後の言葉を書かないことが、もしかしたら病死以外の死因を呼んだのかもしれません。

恭子への遺書について

そしてついに【仲良し】くんは心の中の最も深部といえる図書館の書庫で遺書を発見します。
象徴的にいえば、やっと彼女の魂あるいは膵臓に気付いたとも言えるかもしれません。

映画「君の膵臓をたべたい」遺書を発見する仲良しくん

(c) 2017「君の膵臓をたべたい」製作委員会 (c)住野よる/双葉社

書庫の扉のところに頭をもたれさせる桜良ってそもそもは可愛いんですが、このときばかり小憎らしい感じでサプラアアイズという声が聞こえてきそうです。

もしも現役図書委員の「彼」がいなかったらどうなっていたんだろうと思うとぞっとしますが、しかし「彼」と【仲良し】くんを引き合わせたのもまた桜良なのです。
まあどのようなカタチにせよ、いずれは見つかっていたんでしょう。

そして青春映画の主人公は必ず一度は走ります。
これは日本映画界の伝統であり絶対に守らなければならない鉄則なのです。
脚本に無ければ製作委員会のお偉方に「走るシーンは?」と言われてしまいます。

映画「君の膵臓をたべたい」仲良しくん走る画像

(c) 2017「君の膵臓をたべたい」製作委員会 (c)住野よる/双葉社

映画「君の膵臓をたべたい」桜良走る画像

(c) 2017「君の膵臓をたべたい」製作委員会 (c)住野よる/双葉社

でもいいですよね、ほんと。
まさしく”汝、身を焼くとも約束を成就すべし”という感じです。

映画「君の膵臓をたべたい」病室友達になってください画像

(c) 2017「君の膵臓をたべたい」製作委員会 (c)住野よる/双葉社

12年後の【仲良し】くんと恭子の邂逅も素晴らしい。
恭子がその場で遺書を読み切らなければいけないため、本来的にはなかなか難しいシーンだと思うんですけど、むしろ見どころがたくさんあります。

一瞬、【仲良し】くんが桜良と恭子の写真を見るカット。
『僕と友達になってください』の回想。
お門違いなどと言わずに場違いと言うセリフ。
などなど。

ちなみに【仲良し】くんと桜良の写真を劇中に一度も登場させないで、恭子側に写真は集中させておき、最後のここで使うのは最高にカッコいいと思います。
九州へのお泊り旅行時に桜良はカメラを持っていたにもかかわらずですよ。
普通は途中で【仲良し】くん側でも使いたくなると思うんですけどね。

映画「君の膵臓をたべたい」桜良と恭子写真画像

(c) 2017「君の膵臓をたべたい」製作委員会 (c)住野よる/双葉社

そして北川景子さんも素晴らしいですよね。
実際のところ出演シーンはそんなに多くないので、撮影に参加したのは多くても数日程度といったところでしょうが、きっちりと12年後の恭子を演じていらっしゃいます。
また本来的には映画やドラマの主役級であるにも関わらず脇役といっていい役柄に全力投球なのも、まあ当たり前なんでしょうけど、でもやはり感銘を受けました。
最後の『バアヵ』とカを極力小さくした言い方もTHE・北川景子という感じでいいですよね。

映画「君の膵臓をたべたい」花嫁恭子画像

(c) 2017「君の膵臓をたべたい」製作委員会 (c)住野よる/双葉社

かくして【仲良し】くんと恭子は友達になりました。
必要だったのはほんのちょっとのきっかけだったんでしょうね。
桜良の葬式には行くことが出来なかったけど、恭子の結婚式には間に合って良かったです。

きっとうまくいくはずですよね。

 

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